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【ジュビロ磐田】伊藤彰監督の「修正力」ミクロ分析<2022J1第12節VS C大阪>

どうもさかりーにょです。

2021シーズンはブァンフォーレ甲府躍進の立役者となり、ジュビロ磐田への個人昇格を勝ち取った伊藤彰監督。ペップ監督が率いていた頃のバルサスタイルに大きな影響を受けており、伊藤彰監督が志向するサッカーも攻撃時【3-4-2-1】、守備時【5-4-1】の可変システムであり、特に守備時の立ち位置を細かく定めることが伊藤彰監督の特徴である。

今回は、良い監督の必須条件とされる「試合の中での修正力」という一点に着目して伊藤彰監督が2022J1第12節VS C大阪の試合の中で打った手を基にミクロ分析していく。

スタッツ

✓スタメン

ジュビロ磐田基本戦術

攻撃時は【3-4-2-1】の配置で幅を取り、横への揺さぶりによるスライドの「ずれ」を狙った縦パスをトリガーにWB、IHが連動してファイナルサードへ侵入するようにデザインされている。

守備時のリトリート時は【5-4-1】のブロックを形成でゴール前のスペースを管理する。ハイプレス時はワントップのFWと2枚のIHが連動してボールをサイド方向に追い込み、サイドのミドルエリアでボールを奪うように設計されている。

C大阪基本戦術

「守備では、ゴールを守るのではなく、果敢にボールを奪いに行くアグレッシブサッカー。攻守に全員がかかわり続け、ハードワークする躍動感あるサッカー。」

を目的に、オーソドックスな【4-4-2】を採用。

攻撃時はSB、SH、CH、FWが絡んだ複数パターンを持つサイドの崩しが攻撃の主体。

守備時は、1stディフェンダーと相手、ボールの位置によって立ち位置が決まるゾーンディフェンスを採用し、ハイプレス時にはサイドエリアでボールを奪うようにデザイン。一方でリトリート時には4-4-2のコンパクトなブロックからの高速カウンターを狙う。

【ジュビロ磐田:前半問題点】

前半はC大阪に押し込まれる展開が続き、ロングボールを蹴りこんでは簡単に回収されて二次攻撃を受けるという厳しい展開に。結果としてC大阪の狙い通りサイドから崩されて2失点を献上。攻守共にほとんど見せ場を作ることができずに前半を終えた。

以下は、前半でジュビロ磐田が抱えていた攻守における問題点である。

●攻撃の問題点

・選手間の距離感が広く、ロングボールや縦パスを打ち込んだ後のサポートができない。その結果、前線の選手が孤立して数的劣位に陥り、ボ ールをロストする

・伊藤彰監督が試合中に幾度となく指示を送っていた相手SBの背後は取れるシーンが一定あったが、関わる人数が少なく効果的な攻撃に繋げることができなかった

・GKビルドアップの際に以下のような配置を取るために、GKとCBのポジションが重なり、1人のデッドプレーヤーを作ってしまっている

●守備の問題点

・3バックの両脇のスペースを利用され続ける

・1トップと2IHのプレスがデザインされておらず、簡単にビルドアップを許す

・1stディフェンスが決まらないため、後方のディフェンスのポジション取りが定まらず後手のディフェンスとなる

・サイドへの揺さぶりに対応できない。また、逆サイドのマークの強度が低い

・3番の大井健太郎の個人守備強度が極めて低い。左WBとのマーク受け渡しの連携が原因の一つとも考えられるが左サイドでスペースと時間を与えてしまう

伊藤彰監督の後半修正ミクロ分析

ジュビロ磐田が前半抱えていた問題を解決するために伊藤彰監督が行った修正は以下のとおりである。

伊藤彰式修正:後半開始から【3-4-2-1】から【4-4-2】に変更

【3-4-2-1】から【4-4-2】に変更したことで改善された点は以下の通りである。

改善点①:サイドの両脇のスペースを利用されなくなった

問題を引き起こす原因の1つであった大井健太郎を下げて配置を4-4-2にすることで前半の課題であった「3バックの両脇」のスペースを埋めることに成功し、後半はC大阪にサイドを制圧される回数が少なくなった。

各選手の担当ゾーンが明確になったことで、前半に散見されたWBの縦のスライドの遅れ、RCBとLCBとのマークの受け渡しなどの問題が一度に解決された。

改善点②:前線からのハイプレスのプレスの成功率が上がった

前半は1トップと2シャドーの3枚でC大阪のGKを含めた5枚とCHのビルドアップを抑止するどころかパスコースの制限をすることも叶わなかった。

後半は配置を【4-4-2】にしたことにより、プレスをかける際の距離感とタイミングが計りやすくなり、幾度となくハイプレスからのボール奪取を成功させていた。

この現象は伊藤彰監督の分析力と修正力の賜物であると言える。

改善点➂:ビルドアップが機能するようになった

前半のビルドアップはGKの前に3枚のDFがほぼフラットに配置されていたために角度を作ることができないだけでなく、GKの前にいるCBを「デッドプレーヤー」にしてしまうという結果になった。

後半は、両CBがぺナ幅まで開き、CHの50番遠藤保仁がその頂点に配置されることで「ひし形」を形成し、幅と深さを作り出すことで選択肢を増やすことに成功した結果C大阪2トップのプレスを回避できるシーンが増え、安定したビルドアップ機会を作りだせるような修正を見せた。

さかりーにょeyes

さかりーにょの師であるモウリーニョも名将ファンハール監督にその高い言語力だけでなく緻密で丁寧な分析力も絶大な評価得ていたことは有名な話である。

実際、有能監督と無能監督を判断する際の重要な要素とされるのが「ゲーム中における修正力」である。本ゲームにおいてはジュビロ磐田は前半0-2、後半は別のチームのようなプレーを見せて1-0として見せた。勿論、試合に勝利されなければ評価されない世界ではあるが、伊藤彰監督のその類まれな修正能力に疑いの余地はないだろう。

今後試合を見る際の「新たな楽しみ方」の1つとしてこの「修正力」を中心に試合を楽しむ人が1人でも増えたらさかりーにょ冥利に尽きる。

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